この心臓が錆びるまで
私たち学生は、夏休みに入った。
と、いってもそれはもう大分前の話しで、気付けば夏休みも中盤に差し掛かっている。夏休みの大体の日を家の中で過ごす私にとっては、夏休みなんて全然楽しくないのだけれど。
「薺、クーラー効きすぎだ」
ガンガンに冷えたリビングで宿題をやっていると、2階で会社から持ってきた仕事をしていたお兄ちゃんが入ってきた。いつもはスーツをカッコ良く着こなしているお兄ちゃんだけど、今日みたいに会社が休みの日は七分Tシャツにジーンズというラフな格好なことが多い。
「仕事、終わったの?」
「ああ、後は明日の残業で何とかする」
反対側のソファーにズシリと身体を預けたお兄ちゃんは、ダルそうに首をポキポキと鳴らした。
「お前、誰かと遊んだりしないの?」
疲労の見える瞳だけをこちらに寄越して言うお兄ちゃんに、私はシャーペンを動かしていた手を止めた。
わかってるくせに、と自然と頬が膨らむ。
「友達なんていないもん」
「そうじゃなくて」
首を上げたお兄ちゃんは、かけていた眼鏡を外してテーブルに置いた。
カチャリ、と透き通ったようなしかし耳の痛い音が鳴る。
「あの翠とかいう男とは遊ばないのか、って聞いてんだよ」