この心臓が錆びるまで
予想外に出てきた「翠」という言葉に、思わず固まってしまった。お兄ちゃんを見ると、口元が薄く笑っている。
「アイツと仲良いんだろ?」
「……わかん、ない」
我ながら情けない返事だ。
翠のことを忘れていた。と言えば嘘になる。
私にとって、初めて出来た友達で先輩で、大切な人だ。本当は、毎日翠のことを考えているし、会いたいとも思っている。だけど、翠にだって都合があることもわかっている。
それに、翠は3年生だ。進路が進学か就職かは聞いてないけれど、夏休みはきっと忙しいに違いない。私が遊びに誘ったって、迷惑なだけだ。そう思うと、交換したメールアドレスだって、使えないままになってしまう。
暫く顔を見ていないだけで、自信がなくる。そもそも、その自信がなんなのかもわからない。
急に黙り込んでしまった私に、お兄ちゃんは苦笑した。そして、伸ばされた手が優しく私の頭を撫でる。
「明日の誕生日会は、3人でやる」
「え?」
意味がわからずに顔を上げれば、不敵に細められる切れ長の瞳。
ああ、嫌な予感。
「携帯貸せ、俺がアイツに電話してやる」