この心臓が錆びるまで
予感は見事的中。
だめ!と声を上げたが時既に遅し。お兄ちゃんはソファーから立ち上がると、テーブルの上にあった私の携帯を素早く取った。私の手がむなしくテーブルの上をからぶる。
「えーと、アドレス帳で、翠…翠……、あった」
「ちょ、だめだってば!」
「なんでだよ?」
「す、翠は受験生だし! きっと忙しいしっ…!」
今にも通話ボタンを押しそうなお兄ちゃんに飛び掛かる。なんでダメなのか自分でもよくわからないが、心の準備が出来ていないことだけは確かだった。
焦る私を見て、お兄ちゃんは妖しく口角を吊り上げる。お兄ちゃんが私に意地悪をするときの笑みだ。
「お前のこと好きなら、忙しくても来てくれるだろ」
「な、なっ……」
なんてこと言うんだ!
恥ずかしさと絶望で一杯になる。だって、これでもし出てくれなかったり誘いを断られたりしたら、私は翠に――…
そう考えて、ぎゃー!と一人パニクっていると、
―――ポチ
「あ、押しちゃった」
壁にもたれて余裕の笑みを浮かべながら私を見下ろしていたお兄ちゃんは、悪びれる様子もなくそう告げた。