この心臓が錆びるまで


 電話を耳にあてたまま顔を上げると、満足げな顔をしたお兄ちゃんと視線がぶつかる。


「お兄ちゃん、……どう、しよう。翠、来てくれるって」


 大事(オオゴト)すぎて、どう喜んでいいかわからない。ほけっている私の前にしゃがみ込んだお兄ちゃんに、頭を撫でられた。


「今年は、最高の誕生日会になるぞ」


 途端、言葉にならない感情がぶわりと沸き上がる。


「う、うん!」


 明日の私の誕生日会に、翠が来るんだ。

 何年ぶりだろう、二人きりではない誕生日会なんて。

 お父さんとお母さんが死んでしまってからは、誕生日会はいつもお兄ちゃんと私の二人だけでやっていた。お父さんとお母さんが生きてた頃は、友達のいない私のために親戚を沢山呼んでくれて、盛大な誕生日パーティーをしてくれたのを覚えている。

 皆凄く楽しそうで、私も嬉しくて、一年の中で一番幸せな日だった。

 もうずっと前の話しで、記憶が曖昧なのが悔しい。もっと頭に刻みつけておくべきだったと、いつも思う。

 そして少しだけ、寂しくなるんだ。


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