この心臓が錆びるまで
学園の王子様だなんて。思わず込み上げる笑いをこらえることなく、出海翠を見上げる。だけれどその完璧としか言いようのない風貌を目の前にすれば、納得せざるをえない。
「振った女は数知れず、の出海先輩ですよね?」
彼の持つ飲み込まれそうな雰囲気に負けじと嫌味を込めてそう言えば、出海先輩は綺麗な顔をこれまた綺麗に歪めて口を開いた。
「そうですけど、何か?」
余裕そうに細められるミドリの瞳。吸い込まれそうな、全てを持っていかれそうな気がして、さりげなく目を逸らした。
「認めちゃうんだ、意外ですね。先輩なら王子様らしく“そんなことないよ”とか輝いた笑顔で言うと思ったんですけど」
性格もまるで王子様。なんて、誰がそんなデマを流したんだか。想像していた出海先輩よりも、今自分の目の前で薄く笑う彼はずっとクールだ。
彼、出海先輩は制服のポケットに手を突っ込んだまま、私の隣へと腰をおろした。ふわり、と甘い香りが漂う。先輩の香水だろうか。
「……いい匂い」
「ヘンタイ」
私が眉間に皺を寄せると、先輩は冗談だとおかしく笑う。たったそれだけのことなのに、身体の温度が上昇するのがわかった。
日の光を吸収した瞳は、まるでエメラルドだ。深い深い、深海に輝く宝石のよう。