あの暑い 夏の記憶
「今日は温泉入りに行こうか?」
と、葵ねぇがニカッと笑う。
しばらくして、耕にぃがお出かけ用の白い大きなワンボックスカーに乗って登場した。
当然、葵ねぇは助手席のシートに体を預けて。ニコニコしてる。
こうして見ると、葵ねぇと耕にぃは仲がいい恋人か夫婦みたいなのにな。
海が見渡せる露天風呂は、潮の香りが風に寄り掛かり運ばれてくるかのようだった。
「…昆布の匂いがするー」
「昆布温泉だからね」
長い髪を上にまとめた葵ねぇは、知らないお姉さんに見え。
意味もなくドキッとした。
よしっ…。聞いちゃおう!
「…葵ねぇは…。葵ねぇは…」
わたしはゆらゆらと揺れる、お湯に映る自分の顔を睨みつけた。
「…?」
不思議そうにわたしの方を振り向く葵ねぇ。
「耕にぃのこと…好きなの?」
思い切り言ってみた。
「…心音?」
「…好きなの?」
自分から聞いといて。
どうしよ…。ドキドキする!
長い沈黙を破ったのは葵ねぇだった。