あの暑い 夏の記憶
旭ママが顔出しに行くと、知り合いの競走馬を育てている牧場へ。
わたしと日夏、旭に準くんも付いて来た。
車で30分。
見渡す限りの牧草地が見えてくる。
爽やかに吹く風に、仲良くゆらゆら揺れる牧草たち。
途中にある牛舎には、大きさ体がゆっくりと動いている白と黒模様の牛たちが放牧中だった。
緑色に白字で“千坂牧場”と、書かれた小さな看板を通り過ぎた先には。
広大な牧草地に、使われなくなった、錆びれたサイロと。
その手前に厩舎がぽつんと見える。
車の音に気づいたのか、突然の訪問者を厩舎にいた人達が顔を覗かせ見ていた。
一人のおばさんが旭ママに手を振っている。
「あら~っ!」
「ごめんねー。忙しいのにー。これおすそ分け」
「なんもよ~。丁度休憩中だったのよ。お茶でも飲んでって」
「…でも、忙しいでしょー」
「…馬、見てくかい?」
黙ってそんなやり取りを、気まずそうに聞いていたわたしたちに、やっと気づいてくれたおばさん。