あの暑い 夏の記憶
家の中に上がったおじいちゃんとおばあちゃんは、初めて見る部屋を物珍しそうにしばらく見回していた。
「…札幌に戻って来る気はないの?」
始めに口を開いたのはおばあちゃんで、葵ねぇの顔色を伺う。
「急に何?」
葵ねぇは面倒臭そうに答えた。
「あなたが身篭ったこと、耕毅さんから連絡貰ったのよ。なのに結婚はまだ考えてないだなんて…。手術の話も。全て聞いたのよ?どういうことなの?」
「…あ、まぁ…。立って話すことでもないので、とりあえず座って話しませんか?」
間に耕にぃが割り込んできて、そうね。と、おばあちゃんが椅子に腰かけ、みんなそれぞれ適当に座った。
「…帰って来るなって言ってみたり、戻って来いって言ってみたり。随分勝手な話だわ」
そう葵ねぇは溜め息をついた。
「勝手なのはどっちだ!?勝手に家を飛び出して、勝手にこんな男と…。心音を引き取って、勝手にこんな所に来て、勝手に身篭って…。好き勝手しているのはどっちだ!?」
おじいちゃんは低い声を荒げる。