あの暑い 夏の記憶
どこか遠い目をして、葵ねぇは話し出した。
真美は中学卒業してから家にも帰らなくて、通信制高校に通ってたんだ。
そこで知り合った男と一緒に暮らすようになって、すぐ結婚。
17歳で心音を生んで。
貧乏だったけど、それなりに楽しそうで、幸せだったみたい。
それから3年が経って、赤ちゃんができた時。
予定よりも2ヶ月も早くて、早産で救急車で病院に運ばれたんだけど。
脳内出血を引き起こしてて、結局…どっちも助からなかった。
「…いけ好かない男だったけど、やっぱり女の腐ったような男だった。だっさーい男」
真美がいないなら、意味がない。
子供なんて育てる気ないし、施設でも何でも預けますよ。
「…なんて言うから思わず…、殴りそうになった。ま…、耕ちゃんが殴りかかってたけど…」
ニカッと笑って話す葵ねぇは、殴ってやれば良かったかな。って、悔しそうにしている。
わたしの苗字をそのままにしたのは、お母さんが少なからず“幸せだった証”だからだって…。