あの暑い 夏の記憶
「魚…嫌いじゃないしょ?むしろ好きだったしょ。何で食べないの?」
葵ねぇが聞いたことに、また日夏は黙り込む。
それでも葵ねぇは話しを続けた。
「日夏のお父さんが引き上げた魚じゃん。あんたが食べてくれるから持って来てんだよ?日夏は魚が好きだからって、持って来てるんだよ。何で食べないのさ?」
「…もう…魚も貝も…昆布も…引き上げられないじゃんかよっ!漁に出れないんだよっ!それなのに…食べれるわけ…ないじゃんかよ…」
立てた膝に顔をくっつけて、俯いた日夏は声を震わせる。
「食べてあげなよ。日夏のお父さんは…日夏が食べてくれる、それだけのためにこうして持って来てんだから。
それで自分の背中見せてんだから。日夏だから、漁の大変さを教えてくれたんじゃないの?色々理由つけて手伝いさせたんじゃんよ?
農作業の手伝いもそうだけど…。何よりも…自分が教えてあげられるのは海のことしかないからって、日夏に少しでも分かって欲しかったからじゃんよ?」