あの暑い 夏の記憶

葵ねぇは、日夏の背中を抱えて。

日夏がそんなんだったら、お父さんもガッカリだわ。

と、囁いた。


「…病院着いたら…腕も…脚も…なくなってて…もう…生きて…ないんじゃないかって…」

小刻みに肩を震わせる。


葵ねぇはポケットからハンカチを取り出し、その包みの中身を日夏の手の中に握らせた。



あの、濃い青と水色と濃い緑の“海の色”。

刺繍糸で、必死に日夏が作った物。


「命が助かって良かったよ…。本当に生死をさ迷ってたって聞いたよ。

歩いたり、右手を使うことは確かに…もう出来ない。でも、意識もしっかりしてるし、ご飯も食べれるし。…日夏の顔も見れる。明日…お母さんと一緒に病院行って来な。

お父さんが必死に生きようとしてる様を…その目でしっかり見て来な。

だから、こんなのって言わず。これがあったから…生きてるんだって思うよ?」

葵ねぇは、しっかりしなっ!男だろ!?と、背中をドンッと叩いてニカッと笑う。
 
 
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