あの暑い 夏の記憶

「痛って~なっ!…葵ねぇ…よくそんなんで耕にぃと結婚出来たなっ!?」

顔は伏せたまま、日夏が声を張り上げる。


「あの人は物好きなんじゃないの?」


「ぶははっ。捨てられんじゃね~か?」


「かぁーっ、ったく生意気だねーっ。んじゃ私は帰って寝よっと」


「グータラしやがってよっ!捨てられんじゃね~ぞっ」


「はいはい」

葵ねぇは背中を向け、手を振ると外へと去って行った。


まだ額は膝に隠されてはいたけれど、すっかり、いつもの口調を取り戻した日夏に。


「わたしも行くね…?」

と、言い残し、そそくさと葵ねぇの後を追おうとした。



大嫌いって言われたから。

だから、早く立ち去りたかった。


話しかける度に。

次は…何言われるかって…ビクビクしてたから。



早く、出て行きたかったのに、それを止めた。


「…心音…?」

その呼び声に、体がビクッと驚いた。


振り返るなんて出来なくて。

「…じゃーもう行くね!」

と、足が勝手に動き駆け出した。
 

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