あの暑い 夏の記憶
19.あの夏の記憶
念入りに鏡の前でチェック。
「…あっ!クマ出来てるっ」
慌てて瞳の下をマッサージ。
葵ねぇと一緒にかけた緩いウェーブは、胸の辺りで揺れた。
「…心音?どっか行くの?」
「うんっ!ちょっとね」
「そんな格好で?」
葵ねぇは怪訝そうな顔でわたしを見る。
「あー、ばー」
葵ねぇに抱えられた、赤ちゃんの小さな手を軽く握る。
「はるたんバイバーイ」
足元には、わたしに着いて歩く女の子。
「みーたんどこいくのー?」
「しずくーっ!?着替えるよー!」
「ほら、呼んでるよー。じゃ行ってきまーすっ」
「みーたんいてらっしゃい」
まだうまく話せない子供に見送られ、わたしは家を飛び出した。
時間は昼前。
うん、昼には着くかな。
自転車を漕ぐ体に受ける春の風は、まだ冷たくて、顔が強張るのがわかる。
せっかくセットしたヘアスタイルも、こんなんじゃ台なしだよ。
なんて思いながら目的地へと走らせる。