砂漠の月歌 〜dream story〜
「俺は父上はまだしも、
母上の顔すら知らないんだ…というか、
母上を知らない…。見たのは写真だけ…」
今までそんな事は一言も口にしなかった。
それくらい王子は、滅多に心の内を明かした事がなかったのだから。
「……執事よ…、俺は死にたいのだ…」
その言葉に執事は驚きを隠せなかった。
「王子っ…!!何言ってっ…」
思わず怒鳴ろうとした。
しかし怒鳴る前に気づいてしまった。王子の手が僅かに震えていた事を…。
「……こんな宮殿に生まれたばっかりに…
お前は王子なんだからと、
身勝手な理由で縛られた俺は…」
「お、王子…」
ギリッ…と歯を食いしばる音が聞こえる。
「生まれた瞬間から…、自由を無くしてたんだ…」
執事からは、王子の顔は見えない。
青い空を見上げながら、王子は呟いた。
「……だから俺はいつも、
宮殿の窓から街を眺めていた…
俺は自由に生きる
街の人達が…羨ましかったから…。」
それは執事に対して言ったのか、ただの独り言なのか定かではなかった。