未完成人一家
被害者は誰だ

真奈美は異常なまでの潔癖症となっていた。

学問にばかり捕われ、人間としての感覚的な部分は幼稚なままの大人になった。

『真奈美はできる娘だ』

できなくて殴られ続ける妹を横目に、(あんな目に遭いたくない、優秀でありさえすれば両親からの愛情を得られるのだ)と信じ、血の滲む努力をしてきた。

その愛情などというものが、この家に存在しないという事実を受け入れることは困難だった。

(もっと、もっと・・・

私は完璧でなくてはならない。)
自らを追い込み、妥協を許さず、真奈美の中での怠慢は『死』を意味した。


本能のままに生きる妹や両親を軽蔑するようになると

食べることは醜いとことだと感じ始め、人前での食事ができなくなった。

身体は骨と皮になった。


突然沸き起こる激しい食欲。


(あぁ、醜い・・・。)


食べた物を吐き出すことは、真奈美のがんじがらめになった心を、ほんの一瞬だけ解放してくれた。

(逆らうのだ、本能に。

理性のない動物に成り下がるくらいなら、死んだ方がマシなのだ・・・)




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