未完成人一家
幼い頃からカンだけは良かった香代子は、この両親から愛を得られないことにはとっくに気がづいていた。
だからこそ、己こそが愛することで、その溝を埋めようとしてきた。
その努力も徒労に終わることがわかった時、そこから離れることに決めたのだ。
上京して、働きながら様々な男と付き合ったりはしたが、何をしていても、誰と一緒にいても、香代子の心を穏やかにすることはなかった。
また、暴力に対しての尋常でないほどの嫌悪感から、自分とは無関係の、酔っ払いの喧嘩などに遭遇しただけで、その相手に殴り掛かったりすることもあった。
性根の優しい男性から愛されることがあっても、香代子にとっては気味が悪く、平穏な幸せと思えるはずの状況から、自ら遠ざかることしかできなかった。
(無償の愛なんて存在しない。
そこにあるのは薄汚い性欲のみだ。)