未完成人一家

万里子は自分の都合に合わせて事実までを捩曲げて解釈をした。

文学少女だった時代、世間体ばかり気にする母の前で、ありのままの自分でいられなかった万里子は、母との関係を自分の好みの物語りに作り変えることで現実から逃げてきた。


(私は完璧な母だった。

優秀な真奈美のことも、不良になった香代子のことも、分け隔てなく愛してきた。

むしろ、香代子を誇らしいとさえ思った私は、 夫が香代子を受け入れなくなったことが許せなかった。

これは立派な離婚理由となる。

グレてしまった娘を思う気持ちから、夫婦の関係にピリオドを打つ妻。

そうだ、お腹を痛めて産んだ娘なのだ。

出来が悪いからといって、子を愛する気持ちに変わりはない。
夫は娘を作品だとしか思わなかった。

だから、思い通りにならなくなった瞬間、平気で棄てることができるのだ。

母の愛の偉大さは、いつか二人の娘に教えてやろう。


どれだけ私が二人を愛しているか・・・ )


万里子は自分の描いたストーリーに酔いしれた。




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