未完成人一家

弘樹に至っては、激しい憤りを感じていた。

(この自分ほど、優れた夫であり父親が一体何をしたというのだ。

稼ぎはよく、貧しい思いをさせたわけでもない、ギャンブルもしないしタバコも吸わない。

妻に対して暴力を振るったこともないのだ。

その上、夜中に遊び歩く妻を咎めたこともない。

最近の万里子の刺々しい態度といったらない。

くだらない恥ずかしい小説なんか書いて調子に乗りやがって・・・)

老け始めた顔に、ろくに化粧をしなくなったことについても許しがたかった。

(俺は芸術家なんだ。

醜い顔に彫刻刀を突き付けてやりたくなる衝動を抑えるのがやっとのところだ。


もし離婚するなら、万里子から慰謝料をふんだくってやろう。)




< 33 / 63 >

この作品をシェア

pagetop