未完成人一家
『何をやっている』
万里子は慌てて状況を説明しようとした。
『うるさいっ。 出て行った娘のことなど知るか!!
こいつの男にでもなんとかしてもらえばいいだろうが!
おい、起きろよ香代子! 誰の家だと思ってるんだ!? 』
弘樹は香代子の布団を剥がすと、寝ている娘の髪を掴んで強引に引きずり出した。
香代子は蒼い顔のまま目を丸くしている。
『お父さん、今日だけは、泊まらせてあげて・・・ 病気で、こんな夜中に・・・ 』
万里子は精一杯の勇気で、初めて夫に抗議する。
しかし、既に香代子は自分のバックを肩にかけ、立ち上がり
『お邪魔しました』
それだけ言い、階段を降りて行った。
玄関を慌てて閉める音。
リビングのテーブルには、〔薬代〕と書かれたメモの上に皺くちゃになった千円札が置かれていた。