未完成人一家
一方、両親が放つ異様な空気に感づいてしまい、二人の顔色ばかり伺うようにしてきた香代子はどうか。
幼い頃から、感情を殺して生きてきてしまった。
今更自分の感情などというものがわからない。
何を感じるかは相手次第なのだ。
遊園地にいても、母親の辛そうな顔を見れば香代子も楽しくない。
テレビを見ていても、二人が笑っていなければ面白いかどうかもわからない。
悲しいとか嬉しいとか、どうしたいという感情が一切もてないのであった。
また、香代子は父親によく似たタイプの男としか付き合えない。
突然暴れ出す、怒鳴る、手を挙げる・・・
されると嫌で堪らないのに、それらの無い環境は香代子を逆に落ち着かなくさせる。
いつもドキドキハラハラしてきたのが当たり前になってしまい、平穏な状態に我慢ができない。
それは、マラソンランナーが急に走るのを止めると心臓がおかしくなるのとよく似ていた。