【連作】そらにかなでし〜平安朝禁断恋草紙⑤〜
「こちらの屋敷にお移りになられたとのことを聞き及びましてからでも、ずいぶんな月日が経ってしまいました。その後、お体の障りは、いかがなご様子でしょうか」

と、お美しいかんばせに、ご心痛をお浮かべになって、このようにおっしゃる一の君に、

「お方様におかせられましては、殿の御慈愛もあつくていらっしゃいますので、このごろには、もう、すっかりとお元気になられて」

と、女房が答えますところへ、

「せめて、わずかにも、お顔を拝見することができましたら、私も、この弟も、心安くいられますものを」

と、一の君はゆったりと微笑まれるのでした。
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