†Devil Kiss†
──────・・・・・・・



「ローズ」



それが彼女の名前だった。


無意味に名前を呟く。



呼んでも会えないし話せない。



けれど無性に名前を呼びたくなる。



ちょっとは慰めになるような気がするから。



だがユハはなぜ会いたくなるのか・・・話したくなるのかは、よくわからなかった。



悪魔は恋などしない。



心が無いのだから、相手を想いやる気持ちだってないのだ。



だから、自分が恋をしているだなんて、当の本人は微塵も気付いていない。



ただ戸惑っているだけなのだ。


こんな風に女に関心を持つことなんて、今までに無かったのだから。




ユハは最近ずっと動かずにここでローズを見ていた。



ローズの一挙一動を見ているのが、今、何よりも楽しいのだ。




「あ・・・・・・」



ユハは湖に身を乗り出した。



ローズが男に言いよられ、苦笑いしている。



相手は、最近ずっとローズに言いよっている男だ。



当のローズは相手にしていないのだが、村の人から人気のある男らしいうえ


あんまり拒絶すると更に燃えるようなので、ローズは少し話を聞いて逃げるように帰るということを繰り返していた。




やはり、人間と悪魔は違う。



人間は好きになったらなかなかしつこい。



嫌だと言っても、いつか自分に振り向いてくれるかもしれないと、根拠のない希望を胸に抱く。



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