ストレイ・ハーツ〜夢みる王子のねがいごと〜


視線の先の草むらのすぐ奥は、またあの暗い森が広がっている。
あの不気味な森が。

まだわずかに日は出ているものの、じき暮れる。
森の中は一足も二足もはやく夜を迎えていた。

気配がするのは、ちょうどその境のあたり。
近づくにつれ正確な場所が把握できるようになる。

草むらの中の太い木の後ろ。


──いる。
思ったより、大きい。


太い木の幹からその体がはみ出している。
黒い影に縁取られるその正体は見当もつかないが、荒い息遣いからおそらく獣だろう。

すぐそこは森だし熊か猪など野生の獣が居てもおかしくはないが、この世界でそれはどこまで通じるのか。
ただこの森に足を踏み入れてからここに来るまでの間、それらに遭うことは一切無かった。

そうするとやはりこの世界の住人。
意図してレオの目の前に現れたもの。
そう考えるのが、妥当だった。

じり、と一歩詰め寄ったその瞬間。
ガサリと気配が大きく動いた。


「───…!」


その影はすぐ隣りの木に移動しただけで、こちらに向かってくるわけでもなかった。
一瞬の隙をつくように移動したかと思ったら、すぐにまたその身を潜める。
やはり木から大きな影がはみ出ているのでバレバレなのだが。

しかし移動したその瞬間、レオはその姿をその目で見ることができた。
その、正体を。

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