ストレイ・ハーツ〜夢みる王子のねがいごと〜


『乗ってレオ!!』

「……っ!」


ライオンの申し出に一瞬の躊躇を払い捨て、レオはその背中に跨るように飛び乗った。
バランスを整える間も無く4本の足が地面を蹴り、風を切るようにそのスピードは加速していく。
振り落とされないよう必死でその体にしがみついた。

振り返った視線の先、黒い手の群れとの広がる距離に、思わず胸を撫で下ろす。
あのまま走っていたら、レオは確実に捕まっていただろう。


「やるじゃんお前」

『レ、レオ…褒めてもらった矢先で残念なお知らせなんだけど…』


「なんだよはえーな! いらねーよ、んなもん!!」

『はさまれたみたい』


がばりと再び視線を前方に向けると、振り切ったはずのソレと同じカタマリが、ざわざわと蠢きながら前方で待ち構えていた。


「…マジかよ…!」


呟きと同時に、ライオンの毛を掴んでいた手に力がこもる。

ケンカには慣れていたし得意だったけれど、相手が生身の人間の場合だ。
あんなもの、拳が効くとは到底思えない。
イヤな想像で冷や汗が滲む。

それでもライオンは足を止めなかった。


「…おい、どうする気…」

『レオ、ボクはね。本当に見た目ばかりの、臆病者だったんだ。弱虫で、意気地なしで、そんな自分を知られたくなくて…なるべくダレとも関わらないように、ずっと隠れていた。さっきの崖の上にいたみたいに、じっと動けず震えているばかりだった。外にはこわいものばかりだったんだ』


「…おい…?」

『願いごとはあったけど、とても口にはできなかった。その勇気すら、ボクにはなかったんだ。変われず、踏み出せず。ボクはずっと…ひとりぼっちだった』


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