ストレイ・ハーツ〜夢みる王子のねがいごと〜
「おれ達が欲しかったのはさ、きっとおんなじものなんじゃないかなぁ」
「……おなじ、か」
「レオもアオも、おれも。自分のことで手一杯の、ガキだったってこと。そろそろ前に、進まなきゃねぇ」
そうかもな、と隣りでアオが笑い、リオも笑い返す。
相変わらず自分達を見下ろす魔女が陰鬱にわらう。
その後ろには真っ黒い雲が影を濃くし、日の光をすべて遮っていた。
「なぁに、アタシとヤる気? いい度胸じゃない。まさか中にいる住人の力をアテにしてるの? ソイツらとアタシの力の差ぐらい、わかるでしょう? そんな願いを手に入れたヤツらにもう用は無いのよ…!」
向けられる目は、突き刺さるような鋭い意思は、完全なる敵意。
それを肌で感じたとしても。
きっとふたりが考えていることは同じだった。
「うーちゃんとレオが帰ってくる場所は、ちゃんと守らなきゃね」
ぽたり、と足元に一滴の雫が吸い込まれ、やがて空から無数の雫が溢れ出した。
「──ホント、ジャマ者ばっかり…! みんな要らない…消えればいい…! こんな世界にしがみついてるから、いつまで経っても変われないのよ…!アタシは行く。変えてやる…! この世界の外に、必ず行ってやる…っ」
東の魔女が感情を顕に口元を歪め、振り上げたその手の先に棒状の杖のようなものが現れた。
その先端が光を帯びる。
暗雲に泳ぐ黄色い龍をまるで呼んでいるかのようにその周りに雷が渦巻いた。
「ジャマするんじゃないわよ…!」
轟音が鳴り、黒い雲間を走る稲光。
リオもアオも思わず目を瞑った。
金色の雷が──降り落とされる。
だけどそれは黒い雲からでは無く、谷底から。
リオとアオにではなく東の魔女へと、まっすぐ落ちた。