ストレイ・ハーツ〜夢みる王子のねがいごと〜


ふと川下の方から上がってくるレオの姿が視界に入り、アオが顔を向ける。
川の水で顔を洗っていたのか、滴る水をシャツの袖で無造作に拭いていた。

それから長めの金髪の半分くらいを慣れた手つきでヘアゴムで後ろに縛り、そこで漸くアオにに気付いたようで、顔を上げる。
それを確認してからアオが口を開いた。


「何かあったか?」

「……いや。しばらくは枯れた畑と、草ばっかだった。とうもろこしがなってんのはここらだけみてぇだし…森に入れば何か違うのかもしんねぇけど、迂闊に入んのはどーかと思うし」


相変わらず低いトーンで言いながら、広がる森の方へとレオが視線を向ける。
木々が連なるその森は、光は届いていないかのように暗く不気味だった。


『──……、…』


ふと微かに耳に届いたそれに、思わずアオが足を止める。
流れる水音と風に混じる、不釣合いな、なにか。
声が、聞こえた気がした。


『──…れ、…か…』


うめき声のようなか細いそれに、アオは思わず眉をしかめてメガネのフレームを押し上げる。
今度はさっきよりもはっきりと、声になっている気がする。


「…レオ、何か聞こえないか」

「……なんだよ、なにかって」


「いや…、人の、声のような…」

「………」


「気のせいか…森の方から聞こえてきた気がしたんだが…」


顎に手をあてて森をじっと睨むアオに、レオはどこか顔を青くし「オレには聞こえねぇ」と素っ気無く残し、家へと入って行ってしまった。

アオも深くは気に留めず、その背中を追った。

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