きみとベッドで【完結】
『ねぇ、先生。いまから先生の部屋に行ってもいい?』
「ダメに決まってるだろう」
『なんで?』
「常識で考えろ。いま何時だと思ってる」
だいたい俺は生徒を部屋に上げたことはない。
住所を教えたこともない。
それなりに自分の容姿が引き起こすだろう問題には、対処を考えてあるのだ。
『こんな時間、あたしにとっては昼間と一緒なのにね』
笑ってから、シキはため息をついた。
この時ようやく、
彼女に元気がないことに気づいた。
「……どうした? なにかあったのか?」
シキは電話の向こうで黙りこんだ。
長い沈黙のあと、ぽつりと彼女はこう言った。
『ひとりの夜って、こんなに長いんだね……』
それは俺を誘い惑わすシキの声ではなく、
ベッドの中で聞く素直なシキの声に似ていた。