きみとベッドで【完結】
去年の夏。
先生のもとを去ると同時に、
あたしは『シキ』という作り物の名前を捨てた。
夜遊びも男遊びも、
むなしいことはすべて存在とともに捨てた。
「やらない。あたしはもうシキじゃないの」
「困ったやつだね。なにを意地張ってるんだか」
「うるさい幹生」
「おまえはいつも、シキとしてサックスを吹いてたわけじゃないって、俺は思ってるんだけどね」
長い脚を組みながら、からかうみたいに顔をのぞきこんでくる幹生。
「それに俺はまだ、おまえのことをシキって呼んでるよ」
あたしのことを、こんな風にからかうのは幹生だけだ。
本当に、勝てる気がしない。
それは、あたしが幹生に甘えているから。