きみとベッドで【完結】

だが、もう会わないというのは聞き捨てならない。



「会わないことはできない。俺は会いたいと言っているだろ」


『あたしは、会いたくないの』


「シキ……」



会いたくない。


好きな女にそれを言われると、ここまで傷つくものなのか。


この傷の深さは、俺の本気の証だが。


それをシキに見せられないのが悔しくてならない。



『もう、いいんだよ先生……』




火にかけたやかんが鳴りはじめる。




『もう、あたしのことは……忘れていいんだよ』




きれいさっぱり、いなくなるから。




妙に明るい、晴れやかな声だった。


だがいま電話の向こうでシキが笑顔で言っているとは、


どうしても思えなかった。
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