君が好き
面会時間が終わるまで二人は話続けた。途中で看護婦を交えて話をした。しかし、いくら話しても碧の心は埋まらなかった。
「これ、君のお母さんが借りていたアパートのテーブルに置いてあった」
帰り際、菅は碧の母親が碧に宛てた手紙を渡した。手紙は封筒に入れられ、碧へ、と表に書かれていた。
「悪いとは思ったが、読ませてもらったよ。 ……君のお母さんは、やはり君のことを愛していたと思うよ」
管は肩越しに言うと、病室を後にした。
碧はしばらく封を開けずに母が書いた自分の名前を見つめていた。管の言葉が信じられないわけではないが、決別の言葉以外が浮かばず、開けることが躊躇われた。
消灯時間が来てもそのまま開けられずにいた。碧は花の添えられた台の上に手紙を置くと、ベッドの中に潜り込んだ。
一時間、二時間経っても、手紙が気になって眠ることができなかった。碧は手紙を手に取ると、窓から部屋を抜け出した。
いつものように美雨が座るベンチの反対側に腰掛けた。そして、月明かりの下で封をあげた。
ごめんなさい。
もう、あなたを育てることはできません。
何もできなくってごめんなさい。
弱いお母さんでごめんなさい。
生きていて良かった
便せんの中央に震える文字で書かれていた。
母親と一緒に自転車の練習をした昼下がり、公園で鉄棒の練習をしているときに迎えに来てくれた夕暮れ、数少ない母親との思い出が思い返された。
(……母さん、温かい思い出があるよ。謝らないといけないのは、僕のほうだ )
自然と涙が溢れ出した。碧は袖で涙を拭った。
突然の風に手紙が宙を舞った。碧は慌てて手紙が落ちたほうに顔を向けると、髪を耳にかけながら、少女が手紙を拾っていた。
「すみません」
涙を拭ってよく見ると、少女が美雨であることに気がついた。
美雨は優しく微笑んだ。
「泣いているの?」
碧は顔を背けた。
「これ、君のお母さんが借りていたアパートのテーブルに置いてあった」
帰り際、菅は碧の母親が碧に宛てた手紙を渡した。手紙は封筒に入れられ、碧へ、と表に書かれていた。
「悪いとは思ったが、読ませてもらったよ。 ……君のお母さんは、やはり君のことを愛していたと思うよ」
管は肩越しに言うと、病室を後にした。
碧はしばらく封を開けずに母が書いた自分の名前を見つめていた。管の言葉が信じられないわけではないが、決別の言葉以外が浮かばず、開けることが躊躇われた。
消灯時間が来てもそのまま開けられずにいた。碧は花の添えられた台の上に手紙を置くと、ベッドの中に潜り込んだ。
一時間、二時間経っても、手紙が気になって眠ることができなかった。碧は手紙を手に取ると、窓から部屋を抜け出した。
いつものように美雨が座るベンチの反対側に腰掛けた。そして、月明かりの下で封をあげた。
ごめんなさい。
もう、あなたを育てることはできません。
何もできなくってごめんなさい。
弱いお母さんでごめんなさい。
生きていて良かった
便せんの中央に震える文字で書かれていた。
母親と一緒に自転車の練習をした昼下がり、公園で鉄棒の練習をしているときに迎えに来てくれた夕暮れ、数少ない母親との思い出が思い返された。
(……母さん、温かい思い出があるよ。謝らないといけないのは、僕のほうだ )
自然と涙が溢れ出した。碧は袖で涙を拭った。
突然の風に手紙が宙を舞った。碧は慌てて手紙が落ちたほうに顔を向けると、髪を耳にかけながら、少女が手紙を拾っていた。
「すみません」
涙を拭ってよく見ると、少女が美雨であることに気がついた。
美雨は優しく微笑んだ。
「泣いているの?」
碧は顔を背けた。