君が好き
美雨は碧の想いを察すると、少し悲しい目をした。
「もう戻ろう。少し休みたい」
「あっ、うん」
碧は慌ててうなずいた。
車椅子の中で美雨は眠っているようだった。碧は時折声を掛けたが、簡単な返事が返ってくるだけであった。
病室に戻ると、美雨はすぐに眠ってしまった。
ベッドに入る前に、ごめんなさい、と一言つぶやいた美雨の横顔が碧の胸を締め付けた。
(謝らないで)
好き合ってから二人の距離が遠退いたように感じた。
(いつまでも傍にいたいよ。ずっと、近くに……)
碧は美雨の手を額に当てると、祈るように目を閉じた。
トクン、トクン、美雨の脈が優しい音を立てた。
美雨の温もりを感じながら、碧は寄り添い、眠った。
『パパ、ママ、トーボがいる』
『ああ、赤トンボだね』
ススキがサラサラと音を立てる中、少女は手を伸ばし駆け出した。碧はその少し後ろを歩いた。
秋の夕暮れは川をオレンジ色に輝かせた。
『華蓮、転ぶわよ』
優しい声が聞こえるほうへ碧は振り返った。そこには、黄金色に輝くススキに負けないほどの眩い笑顔の美雨が立っていた。
碧は少し立ち止まると、美雨が自分のもとに来るのを待った。そして、二人は手を繋いだ。
『華蓮もすぅ』
華蓮は二人の間に入った。
碧と美雨は目を合わせると、穏やかに微笑んだ。
碧は目を覚ますと、ゆっくり体を起こした。
体には毛布が掛けられていた。
美雨のほうへ目を遣ると、美雨の頬を涙が伝っていた。
「美雨?」
碧は不安げな面持ちで美雨の涙を拭った。
夢とは違い、自力で歩くこともままならなくなった美雨の姿を見て、碧は涙を浮かべた。
「……」
美雨はうわ言をつぶやいた。
碧は耳を傾けたが、うまく聞き取ることはできなかった。
(どんな夢をみているのかな? 同じ夢ならどんなに幸せだろう。 ……そんな偶然ないよね)
おそらく美雨は自分の子供と手を取り合い、歩くことはない。夢でしか描けない幸せに、碧は涙を溢した。
これ以上美雨の顔を見ていると、切なさに全身が締め付けられる気がした。
「……もう、帰るね」
碧は震える声で眠っている美雨に囁いた。
「ウッ……」
碧が病室を出ようとすると、美雨がのどを詰まらせたような声を出した。
「もう戻ろう。少し休みたい」
「あっ、うん」
碧は慌ててうなずいた。
車椅子の中で美雨は眠っているようだった。碧は時折声を掛けたが、簡単な返事が返ってくるだけであった。
病室に戻ると、美雨はすぐに眠ってしまった。
ベッドに入る前に、ごめんなさい、と一言つぶやいた美雨の横顔が碧の胸を締め付けた。
(謝らないで)
好き合ってから二人の距離が遠退いたように感じた。
(いつまでも傍にいたいよ。ずっと、近くに……)
碧は美雨の手を額に当てると、祈るように目を閉じた。
トクン、トクン、美雨の脈が優しい音を立てた。
美雨の温もりを感じながら、碧は寄り添い、眠った。
『パパ、ママ、トーボがいる』
『ああ、赤トンボだね』
ススキがサラサラと音を立てる中、少女は手を伸ばし駆け出した。碧はその少し後ろを歩いた。
秋の夕暮れは川をオレンジ色に輝かせた。
『華蓮、転ぶわよ』
優しい声が聞こえるほうへ碧は振り返った。そこには、黄金色に輝くススキに負けないほどの眩い笑顔の美雨が立っていた。
碧は少し立ち止まると、美雨が自分のもとに来るのを待った。そして、二人は手を繋いだ。
『華蓮もすぅ』
華蓮は二人の間に入った。
碧と美雨は目を合わせると、穏やかに微笑んだ。
碧は目を覚ますと、ゆっくり体を起こした。
体には毛布が掛けられていた。
美雨のほうへ目を遣ると、美雨の頬を涙が伝っていた。
「美雨?」
碧は不安げな面持ちで美雨の涙を拭った。
夢とは違い、自力で歩くこともままならなくなった美雨の姿を見て、碧は涙を浮かべた。
「……」
美雨はうわ言をつぶやいた。
碧は耳を傾けたが、うまく聞き取ることはできなかった。
(どんな夢をみているのかな? 同じ夢ならどんなに幸せだろう。 ……そんな偶然ないよね)
おそらく美雨は自分の子供と手を取り合い、歩くことはない。夢でしか描けない幸せに、碧は涙を溢した。
これ以上美雨の顔を見ていると、切なさに全身が締め付けられる気がした。
「……もう、帰るね」
碧は震える声で眠っている美雨に囁いた。
「ウッ……」
碧が病室を出ようとすると、美雨がのどを詰まらせたような声を出した。