君が好き
 美雨は終始穏やかな顔であった。
「過ぎてしまったけれど、誕生日プレゼントが欲しい」
美雨の言葉に碧は顔をあげた。
「うん。いいよ」
「限られた時間、あなたと一緒に過ごしたい」
差し込む夕陽が美雨の潤んだ瞳を輝かせた。あまりに切ないその表情に碧は目をそらした。
「過ごせるよ。病気が良くなったら」
美雨は黙って首を一つ傾けた。
「今だって、入院していたって一緒の時間を過ごせているじゃないか」
美雨は首を横に振った。
「もっともっと、一秒でも長く、好きな場所で二人一緒に居たいの」
美雨は碧の目を真っ直ぐ見つめた。
 碧は堪らずうつむいた。
 夕陽が二人を穏やかに包んだ。二人は言葉を発することなく、その温かさを感じた。
 音のない部屋で時間だけが過ぎていった。
 碧は窓から傾く夕陽を見つめた。一秒でも長く生きていて欲しいという碧の想い、一秒でも長く傍にいたいという美雨の、二人の想い。二つを抱えて何が一番大切かを考えた。
(ずっと傍で笑っていて欲しい)
最後に碧の心を決めたのは、当たり前の想いだった。
「部屋を探すよ」
碧のまっすぐな目を見て、美雨は涙を流した。
「ありがとう」
美雨は張り詰めたものが切れたように、安堵の表情を浮かべていた。
(ごめん、無理をさせたね)
碧は美雨を強く抱きしめた。
 夕陽は静かに沈んでいった。
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