君が好き
 管は暇さえあれば碧を訪ねてきた。
 碧は明るく振舞ったが、何に対しても上の空な様子だった。
 管と美雨は目を合わせると深く息をついた。
「やはり、言うべきではなかったかな」
「でも、いずれはわかることでしょう」
管と美雨は店の裏で話した。
「肝心なところで何もしてやれない。碧も母親も…… そして……」
管は空を仰いだ。
「そんなことないです。管さんがいなければ、今、この時はありません」
美雨も同じように空を見上げた。
 秋を感じさせる肌寒い風が吹いた。
「さぁ、仕事に戻るよ」
管は美雨の肩に手を置いた。
「碧の傍に……」
「うん」
美雨は真っ直ぐな目でうなずいた。
 管は安堵の表情を浮かべた。しかし、その瞳は悲しみに溢れていた。その理由は美雨もわかっていた。
 管は背中を丸めて歩いていった。
「私の行いは残酷かな。二人の果ては見えているのに……」
強い風が吹き、草木が一斉にざわついた。
 管は表情を強張らせた。
「神様、あんたのほうが余程残酷だ」
管は背筋を伸ばすと、しっかりとした足取りで歩いていった。
 美雨は去っていく管の後ろを静かに見つめていた。
(私の残された時間で碧に何をしてやれるだろう?)
擦れあう葉音が聞こえた瞬間、美雨の脳裏にオレンジ色に輝く川、駆け回る女の子の風景が浮かんだ。
(あの時見た夢……)
美雨は自然と温かい気持ちになった。
 美雨は店内に戻った。
 お客相手に悲しい目をして笑う碧の姿に、美雨は目を伏せた。
(彼に残せるもの、それは……)
美雨の目蓋の裏に、黄金色に輝くススキが溢れた。
 美雨の口元は緩んでいた。
「どうしたの?」
碧の声に美雨はクスッと笑った。
「ん?」
「ううん、なんでもない」
美雨は穏やかに微笑んだ。
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