君が好き
 十五年の歳月が経った。
 美雨の命日、あいにくの空模様の中、碧と華蓮は墓石の前で祈りを捧げていた。
 雨粒は二人の傘を跳ね、優しくも哀しい音色を奏でた。
「フフン、フン、フン」
華蓮は雨音に合わせて口ずさんだ。
 碧はクスリと一つ微笑むと、華蓮の頭を撫でた。
「華蓮は歌手になるの?」
「どうかな? 夢ではあるけどね」
華蓮は穏やかな顔をして墓石を見つめた。
 墓参りを終えると、華蓮は桶と柄杓を持った。
「これ、返してくるね」
リズムを踏んで歩いていく後姿に、碧は美雨の姿を重ねた。
「美雨、華蓮も早いもので高校三年生になったよ。君によく似て、綺麗な声で歌うんだ」
碧が目を閉じると、目蓋の裏には色んな歌を歌う、色んな表情をした美雨の姿が映った。

 帰り道、碧と華蓮は美雨が亡くなった川辺へ向かった。
「ママ、よく歌を歌っていたよね」
「覚えているの?」
「うん、所々ね。ちゃんと覚えているのは一曲だけかな」
二人は美雨が亡くなった場所にしゃがみ、花を添えた。
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