君が好き
 碧が飛び降りて一週間が経った。身体を起き上がらせることくらいはできるようになった。自殺未遂をした碧は一般病棟とは異なる病室に入院させられていた。
 部屋にはベッド以外に備え付けの椅子が一つあるだけ。ナースセンターからは一番近く、碧は看護婦が慌しく働く音を聞きながら、四六時中、十センチ程度しか開かない窓から外を見ていた。
病室を訪れるのは菅と看護婦だけであった。一度だけ高校の担任が訪ねて来たが、碧にプリントされた退学届けにサインを書かせると、何も言わずに去っていった。
 未だ母親は見つからず、碧は孤独感と今後の不安の中で震えて過ごした。自殺をしようにも、痛みが思い返されて怖くてできない。
 碧は毎日布団を握り締め、涙を溢した。

ある昼下がり、穏やかな日が窓から射しこんだ。


生きているのがつらいって
死のうだなんて 思わないで

 碧は心をなくしたように呆然と過ごしていると、外から歌声が聴こえてきた。ふと、外に目を遣った。
 黒い服に真っ白なカーディガンを羽織った車椅子の少女が鳥たちと一緒に歌っていた。
 時折フワリ舞い上がるカーディガンはまるで羽根のように柔らかく宙を舞い、天使のような姿に碧はいつまでも見つめていた。
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