君が好き
碧はわずかながら心に温もりを感じた。
「僕の母も少しは愛してくれていたのかな?」
「もちろんさ。子供を育てるというのはとても大変なんだ。君のお母さんはそれを女手一つでやってきた。愛がなければできないことだよ」
強い口調で言う菅の言葉に碧は励まされた。入院以来、母親のことを思うと悲しみしか感じなかったが、初めて優しい気持ちになれた。
外から聞こえる鳥の鳴き声が新鮮に思えた。碧は大きく深呼吸をすると、久ぶりに心の底から身体の隅々まで生きていることを実感した。
生きていることが幸せかどうかはわからない。不幸なことがなくなったわけでもなく、これから大変な思いをする現実も変わってはいなかったが、いま少し生きてみようと小さく決意した。
碧の目に僅かながら活力が戻った。
「仕事に行かないといけない。また来るよ」
菅はニコリ笑うと碧の頭を軽く撫でた。碧は穏やかな顔をしてうなずいた。
昼は看護婦に車椅子を押されて庭を散歩し、夕方には毎日のように訪ねてくる菅と話をした。碧は狭いながらも以前より人との交流ができるようになった。
碧は散歩の途中、美雨をよく見かけた。看護婦の話では晴れの日は日が暮れるまでのほとんどを外のベンチで過ごし、雨の日も一回は外に出るようだ。
「彼女はいつ入院してきたの?」
「美雨ちゃん?」
「うん」
「そうね…… 先輩看護婦の話だと、十年くらい前らしいわ」
「そんなに前から? でも、外に出ていられるなら大した病気でもなさそうですね」
碧は優しい目で美雨のほうを見た。車椅子に乗っていた碧は後ろの看護婦が悲しい顔をしていることを知る由もなかった。
「僕の母も少しは愛してくれていたのかな?」
「もちろんさ。子供を育てるというのはとても大変なんだ。君のお母さんはそれを女手一つでやってきた。愛がなければできないことだよ」
強い口調で言う菅の言葉に碧は励まされた。入院以来、母親のことを思うと悲しみしか感じなかったが、初めて優しい気持ちになれた。
外から聞こえる鳥の鳴き声が新鮮に思えた。碧は大きく深呼吸をすると、久ぶりに心の底から身体の隅々まで生きていることを実感した。
生きていることが幸せかどうかはわからない。不幸なことがなくなったわけでもなく、これから大変な思いをする現実も変わってはいなかったが、いま少し生きてみようと小さく決意した。
碧の目に僅かながら活力が戻った。
「仕事に行かないといけない。また来るよ」
菅はニコリ笑うと碧の頭を軽く撫でた。碧は穏やかな顔をしてうなずいた。
昼は看護婦に車椅子を押されて庭を散歩し、夕方には毎日のように訪ねてくる菅と話をした。碧は狭いながらも以前より人との交流ができるようになった。
碧は散歩の途中、美雨をよく見かけた。看護婦の話では晴れの日は日が暮れるまでのほとんどを外のベンチで過ごし、雨の日も一回は外に出るようだ。
「彼女はいつ入院してきたの?」
「美雨ちゃん?」
「うん」
「そうね…… 先輩看護婦の話だと、十年くらい前らしいわ」
「そんなに前から? でも、外に出ていられるなら大した病気でもなさそうですね」
碧は優しい目で美雨のほうを見た。車椅子に乗っていた碧は後ろの看護婦が悲しい顔をしていることを知る由もなかった。