君が好き
 次の日も、碧は美雨の姿を見かけた。
 美雨はいつも穏やかな表情で木や止まっている鳥に向けて歌っているようだった。
(この前聴いた歌かな?)
碧は少し近づき、歌を聴きたいと思った。
『……冗談に決まっているでしょう。気持ち悪い。近づかないでくれる?』
『あんたなんかを好きになる人がいるわけがないでしょう。陰気で根暗な男』
同級生に浴びせられた言葉が脳裏をよぎった。

 目を覚ますと、花瓶の花の向きが変わっていた。
(菅さん?)
碧は寂しげな表情を浮かべると、身体を起き上がらせ、窓から夕陽を眺めた。
碧は赤く染まる木々を見て、飛び降りたときに見た公園の風景を思い返した。
(あんなことするんじゃなかった)
一人になると弱気な自分が顔を出した。
 碧は枕に顔をうずめた。
 陽が落ちると、病院は静けさに包まれた。
(眠れない)
その先、消灯時間を過ぎても碧は寝付けずにいた。
 風が窓をノックした。
「風も面会に来てくれたの?」
碧はゆっくり起き上がると、窓を開いた。
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