危険な誘惑にくちづけを
姿を消したワケ
「……それで、そのヒト、誰かしら?」
紫音にプロポーズされた時よりも。
それから一旦日本に帰って、柴田と宮下先生の婚姻届に名前を書いてた時よりも。
さらに痩せた感じのする薫ちゃんが、駅前の公園で待っていた。
今は、紫音のことで心配そうな表情を顔に張り付かせているけれど。
毎日とても、充実しているらしい。
びっくりするほど穏やかな瞳が、わたしと佐倉君を交互に見ていた。
そんな薫ちゃんを、佐倉君は上から下までじっと値踏みするみたいに観察して。
薫ちゃんの質問には答えずに、遠慮なく……言った。
「……で。
こいつが、薫ちゃんってヤツ?
背も高くて、横幅もある、壁みたいなやつだけど……
ヤクの売人とかには、見えないな」
そんな、佐倉君の言葉に。
薫ちゃんは、目をすぃ、と細めた。
今まで、のんびりとしていた薫ちゃんの雰囲気が、ぴしり、と引き締まる。
……うわ。
薫ちゃん、迫力。
前も、時には鋭い目をすることがあったけど、今の方がずっとコワい。
……薫ちゃんって、今。
何やって暮らしてたっけ……?