危険な誘惑にくちづけを
「……その話を誰から、聞いたんだ?」

 今までしゃべっていた、おねぇ言葉じゃない。

 完全な男のヒトのしゃべり方に、佐倉君は一瞬息をのみ。

 わたしは、佐倉君から見えない場所で『ごめん』って必死に薫ちゃんに手を合わせてた。

 本当に、ごめんなさいっ!

 薫ちゃんの過去をそんな風に使うつもりは、なかったんだけどっ……!

 わたしの必死の表情を見てとったのか。

 薫ちゃんは、ふっと、ため息をついた。

「あたしは、今。
 そんなコトをしているわけじゃないのよ?
 もう、悪いことは何もしてないし」

 そういう、薫ちゃんの言葉に。

 今度は、佐倉君がにやり、と笑う。

「……やっぱり、ね」

 わたしのコトをウソつき、と声に出さずにみて。

 ほほ笑んだ。

「ああ、初対面なのに、変なコト言ってすみません。
 あなたは、今、なんの職業に付いているんですか?
 オイラは、佐倉って言うんです。
 春陽ちゃんの、今通っている専門学校のクラスメートで……」

 ……わたしを縛る、相手。

 わたしは、何としてでも薫ちゃんと紫音を見つけるつもりだったけど。

 どちらも、基本は日本にいない。

 しかも、薫ちゃんが『コワいヒト』でないコトがばれたから。

 これから、佐倉君に何をされるのかが、怖かった。
 
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