危険な誘惑にくちづけを
 




「えっと……コーヒーかな?
 紅茶かな?
 まさか、日本茶……ってわけないか」

 初めての外国人のお客様に、お茶の用意をしようとじたばたしていると。

 スインちゃんが、にこっ、と笑って水道の蛇口を指差した。

「……ただの水で良いって?」

 うん、うん、と第一印象より、大分可愛く頷くスインちゃんに。

 まさか本当にただの水道水を出すわけには、いかない、よね?

 じゃあ、せめて、これにしょう、と。

『なんとかの美味しい水』っていうミネラル・ウォーターをコップに入れて出したら。

 スインちゃんは、とても高いお茶か何かを飲むみたいに、大事に水にくちづけた。

 彼女の国は、飲料水がとても貴重なんだって、薫ちゃんが言ってたけど。

 それが本当なんだ、と思える飲み方だった。

「……おいしいデスか?」

 スィンちゃんの母国語は、アラビア語で。

 そもそも、日本語が判るっていうのに。

『外人』つていうところを変に意識しすぎて。

 怪しい英語の発音のようになってしまった、わたしの質問に。

 スィンちゃんは、また、にこっと笑って頷いた。
 


 
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