危険な誘惑にくちづけを
 

 ……なんて。

 半分、時間つぶし方々始めてみたのに。

 いくらもしないうちに、わたし。

 薫ちゃんの審美眼が、とても良いことに気がついた。

 本当に盛る、となったら急に遠慮し始めたスインちゃんを。

 まあまあ、いいじやない、となだめながら、下地クリームから始めれば。

 あまり手間をかけない内に、スインちゃん、化けた。

 外見が男の子だと、普段、あまり見ないのか。

 わたしが盛った鏡の中の自分を驚いたように見つめて、何か言った。

「………~~?」

「……ごめん。
 それ、アラビア語だよね?
 わたし、日本語の他は、英語とフランス語、ちょっぴりしか、判んなくて」

 初めて、しゃべってくれたスインちゃんの少し低めのその声は。

 今度は、驚くほどちゃんとした日本語で返って来た。

「……あの阿呆が言ったことなぁ。
 今までウソやと思ってたけど。
 ちょっとは信じてもいいかな、て」

「……は?」

「せやから……」

「じゃなくて! スインちゃん、薫ちゃんとラブラブなはずなのに……あ……アホ?」

 あまりに小気味よく切って捨てた言い方に、わたしは、目を丸くした。

 しかも、関西弁だしっ!?
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