危険な誘惑にくちづけを
「そ……そうなの……?」

 一度話始めたら、今まで黙っていたのがウソみたいに、スインちゃんは、どんどんしゃべる。

「せや!
 歯の浮くセリフを真顔で言うし!
 恥ずかしいったらあらへんけどっ!
 春陽ちゃんにお化粧してもらって、初めて、あの阿呆が言ってること全部が全部ウソや無いなって思た」

 スインちゃんの、言っている言葉はキツいけど、口調は、何だかあったかい。

 スインちゃんは。

 やっぱり、薫ちゃんが好きなんだなぁ、ってわかる。

 いいなぁ。

 スインちゃんは……好きな人が本当のこと言っているのが判って……

 なのに、わたしの方は。

 今。

 薫ちゃんが、紫音のウソを暴きに出かけてる。

 そう、思うと何だか悲しくなって……

「……春陽ちゃん。
 涙出てはる……?」

 え?

 あら。

 あはは。

 ヤダな。

 心配そうな、スィンちゃんの顔が、にじんで見える。

 イヤね。




 わたしってば、泣いて……る。 


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