危険な誘惑にくちづけを
 紫音が……もし。

 薫ちゃんに連れられて、わたしの知らない誰かと現れてしまったら、どうしよう。

 わたしに甘いキスをしたその口で。

 さよなら、と言葉を紡いでしまったら、どうしよう。

 考えれば、考えるほど事態は、悪い方に向かってゆくようで。

 ココロが破裂しそうで。

 スィンちゃんに慰められても、慰められても。

 涙が止まらなくて、どうしょうもなくなったとき。

 ようやく。

 薫ちゃんから、運命の電話が……来た。

 
 るるるるん


 なんて。

 味もそっけもない着信音が鳴り響いたかと思うと。

 出て来たのは、待っていたはずの、薫ちゃんの名前で……

 だけども。

 目の前にある、その電話がどうしても、どうしても触れない。

「電話、取られへんの?
 もしかして、相手はウチの阿呆?」

 言葉はしゃべれても、文字は読めないらしい。

 誰からの電話か聞いてくるスィンちゃんに、涙ながらにうなづくと。

 彼女が、私の代わりに電話に出てくれた。
 
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