危険な誘惑にくちづけを
 わたしは、加藤先輩の言っているコトが良く判らずに聞き返した。

「……えっと、なんで……?」

 もう、紫音も加藤先輩もホストを辞めてしまったから。

 それに、紫音は教師も辞めたし、加藤先輩も学校を卒業した今。

 特に、趣味が同じ、というわけではない二人は、何の接点もないはずで……。

 戸惑っているわたしを見て、加藤先輩は、また頭を掻いた。

「前のバイト先のオーナーの上に、散々世話になった先輩と、連絡を取ってちゃ、おかしいか……?」

「……べ、別に、そんなことはないけど」

 一応言った、わたしの返事か気に食わなかったらしい。

 加藤先輩は、ますます苦い顔をして言った。

「ま、本当はホスト仲間の同窓会、みたいに会えれば、よかったんだけどな……」

「……違うの……?」

「ああ」

 言って、加藤先輩はため息をついた。

「いつか、こんな日が来るんじゃないか、とは思ってたんじゃないかな?
 オレが、医療関係の職についたことを知ったからかもしれない。
 今までも、紫音さんの方から、時々連絡があったんだ……って言っても、今までは世間話程度だったけれどな」

「……」

 そんなコト。

 わたしは、全然、知らなかった。

 何しろ、わたし。

 加藤先輩のコトだって、今まで忘れてたくらいだったし。
 
< 140 / 148 >

この作品をシェア

pagetop