危険な誘惑にくちづけを

 戸惑っているわたしに、加藤先輩は、たたみこむように言った。

「紫音さん、ここずっと海外暮らしで疲れてて、カラダの調子を、少し崩したんだ。
 治ったはずの心臓の薬を、念のために飲みだしたけど。
 それが、今まで飲み慣れてない、新薬だったもんだから。
 ……昔飲んでた薬との飲み合わせで、いきなり、どんっと来たみたいだ」

「昔の薬……」

「そう、アレクサンド・ライトだ」

「……!」
 
 ここにきて、また、あの薬が関係してくるなんて……!

 紫音が、前に愛してたヒトのために飲んでいて……中毒を起こし、瞳を紫色に染めてしまった、悪魔の薬。

 だけども、もう飲んでないはずだったのに。

 紫音が、ホストを辞めたころと、ほぼ同じころから、人工の光が彼を照らしても。

 もう、彼の瞳が変わることはなくなったのに。

 そのカラダには蓄積されて、牙をむく機会をうかかがっていたんだ。

「……なんて……ことに……!」

 ……なってしまったんだろう。

 という、わたしの言葉は、涙にかすれて最後まで言えない。

「弱ってる所に、昔の事を思い出すようなものを、立て続けに見るか、するかしたか?」

 加藤先輩に言われて、わたし。

 あっ、と小さく声をあげた。

「亡くなった前の彼女に似た人、部屋に連れて来ちゃった……!
 それに、その頃バイトしてた先のケーキ食べたし!」

 しかも、普段は偉くて手を出さないはずの風ノ塚さんが、わざわざラッピングしたのを、紫音は判ってた。

「……きっと、それだな」

 思い当たったわたしを見て、先輩は寂しそうにため息をついた。
 
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