危険な誘惑にくちづけを
「今まで平気そうにしてたけど本当は。
 紫音さん……あのオカマのことが、怖かったんじゃないか?」

「……は?」

 加藤先輩の言葉に、わたしは思わず変な声を出しちゃった。

 だって……だって。

 それは、無い……と思うもん。

 確かに、薫ちゃん。

 いざという時は、すごく鋭い目をすることはあるけれど。

 それは、薫ちゃんがわたしに、罪を告白した時の他に、あんまり見たことない。

 普段の、わたしの知っている薫ちゃんは。

 大きな身体を黒いドレスに包んで、お店のホールを滑るように歩く。

 お客様の間で、にこにこ笑ってお話をして、皆を楽しませている。

 そんなイメージしかない。

 睨んで『怖い』のは、紫音の方がずっと迫力だし。

 万が一、腕力に訴えるようなケンカをしても。

 体格は薫ちゃんの方が良くても、武術をきっちり習ってた紫音の方が絶対に強い気がする。

 それに、そもそも。

 紫音は、薫ちゃんのことをすごく信頼しているように見えたのに。

 今回の休みのことだって、そうよ?

 わたしの知らない所で、わたしの知らないことを二人で話しあってたんじゃないの……?

 
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