危険な誘惑にくちづけを
「オレに、過去はいらない。
 欲しいのは。
 春陽との、現在(いま)と未来(さき)だけだ」

 そう言って、じっとわたしを見つめる瞳に。

 それこそ、十代後半からずっと飲んでいたって言う、薬の。

 中毒症状を示す、紫色は、ない。

 見つめていると。

 澄んだ真っ黒な瞳に吸い込まれて行きそうだった。

『紫音』との恋に、ますます落ちてゆきそうだった。

「や……やぁね。
 紫音って、本当にキザなんだから……!」

 照れ隠しに、呟くわたしの唇を。

 紫音は自分の唇で一瞬、塞いでから、言った。

「宮下達へのケーキは、あせらず頑張れ。
 風ノ塚を見習うのは、いい判断だと思うし。
 なんなら、オレも少し手伝ってやるから」

「本当……!?
 じゃあ、今年の夏休みは、日本に帰って来てくれるの……?」

 去年は、フランスでやらなくてはいけないコトがあるって、言って。

 夏休み中も、ほとんど日本には、帰って来なかったけど……

 今年は……?

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