危険な誘惑にくちづけを
 かすかに不安になるわたしに。

 紫音は、少し、目を細めて言った。

「……今年も。
 夏休み中全部を、日本で過ごすわけには、いかないんだ」

「……えぇ~~」

 つい、不満そうになってしまうわたしの声に。

 紫音は、困った顔をして言った。

「そもそも。
 オレは、修行中の身だとはいえ。
 日本での学生ではないからな。
 夏だから、と言っても長期休暇を取れるわけではないんだ」


 ……それは、そうかもしれないけれど……


 ……わかっているんだけど。

 紫音の言葉に、ちょっとだけ……

 本当に、ちょっとだけ。

 涙が滲んで、視界が曇る。

 あれ……?

 あららら?

 いやぁ、ねぇ。

 紫音が、今、忙しいのは、判っているはずなのに。

 今まで、聞き分けて、ちゃんとおとなしく、日本で待っているのに。

 わたし。

 泣くほど、わがまま、だったかな?





 そんなに。


 ……寂しかったのかな?
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