危険な誘惑にくちづけを
 水島の言い方に、妙に引っかかるものがあって。

 わたし、すこし不安になって、聞いた。

「……そうだけど……なに?」
 
「……そんなヒトが、本当にいるなんて。
 今まで、ちっとも思っていなかったから」

 ……は?

「なんで!」

 思わず、大声を上げると。

 ずざざざっ!

 なんて。

 音が聞こえるような視線が。

 わたしたちに向かって降り注いだ。

 今まで、静かにデッサンを続けていたクラスメートが一斉に、こっちを向き。

 この教科を担当している講師が、睨んでる。

 そのヒトビトに、ゼスチャーで丁寧に謝ってから。

 わたしは、今度は小声で、水島に言った。

「なによ、それ。
 水島は、今まで。
 私の言ってることを、信じてなかったの?」

「だって~~
 あたし。
 まさか、そんな夢の王子様みたいな。
 都合のいい、完璧なヒトが実在してるなんて。
 ちっとも思えなくて」

「じゃあ、わたしが。
 今まで、ウソをついてたって?」

 ちょっと、イヤな気分になったわたしに。

 水島は、ぶんぶんと首を振った。
 
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