危険な誘惑にくちづけを
 

 からん からん♪


 って言う、賑やかなドアベルの音を響かせて、なかに入れば。

『いらっしゃいませ♪』って言う元気な声と。

 とても上品な、甘い匂いがわたしたちを迎えてくれる。

 昔のバイト先で、入るのが気恥ずかしいのか。

 それとも、佐倉君と同じ理由だから、かは、判らない。

 紫音が、この店に自分でケーキを買いに行く姿を見たことは、なかったけれど。

 わたしが、ここのケーキを買って来ると。

 他のナニを食べるよりも、うれしそうな顔をして食べるのを知っているから。

 紫音が日本にいるときは、必ず一回は、学校帰りに買って行くことに、してた。

 ケーキ屋さんにしては、割と広めで。

 オーナーパテシェの風ノ塚さんが作ったり、プロデュースしたスィーツが並ぶ、ショウ・ウインドウの向こうに。

 お茶とか出来る、カフェテラスがある。

 いつもは、新作ケーキの味見がてらに、お茶してから、本命のケーキを買ったりするんだけれど。

 今日は、外に佐倉君が待ってるから、おあずけ。

 きらきら輝く宝石の海みたいな、ショウ・ケースを眺めながら。

 水島と一緒に、紫音のためのケーキを選んでた。
  
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